Maybe LOVE【完】
車に乗り込み、顔を上げて閉めていいよって言おうとしたら近付いた顔。
え?と思うヒマなく軽くリップ音が鳴り小さくキス。
びっくりするあたしと鼻でふっと笑うしてやったりなカオル。
こんな人だったっけ?と思ったけど、やっぱりクリスマスにあてられただけなのかもしれない。
運転席に座ったカオルに「ボケッとしてないでシートベルトしろよ」と怒られた。
あたしからの不意打ちはあってもカオルからっていうのは本当に無いに等しい。
だから本当にびっくりで困った。
カオルの家に着いて仕返しを考えてるとカオルが背後に立ってることに気付かず、目隠しされるまで気が付かなかった。
「……なに?」
「もっと可愛い反応しろよ」
キャッとかなんとか反応があるだろ、と言われたけどカオルの家でしかも二人で危険感じてたら安心していられないんだけど…と思いながら持ってきてくれたコーヒーを受け取った。
いつもはブラックで飲むけどカオルの気分でミルクが入ってたりする。
今日はその日らしい。
横に座ったカオルもカップを持っていて、一口飲むと長い息を吐きながらあたしを見た。
「なに?」
「お前、絶対一人で店行くなよ」
「...シゲルさんとこ?」
「他にどこがあんだよ」
「なんで?」
「なんで?」
あたしがなんで?って返したことが悪いみたいな言い方。
眉間に皺まで寄せてる。
美味しかったしシゲルさんいい人だし行く気満々だった。
行くなって言われても行くけど。
「行くなっつってんの」
「行くって言ってないよ」
「顔が喋ってんだよ」
そんなわかりやすい?と首を傾げると「ほらな」と言われてカマかけられたことに気付いた。
「ずるいよ」
「ずるくねぇ」
「何も言ってないのに」
「何も言ってなくても顔が喋ってるって言っただろ。シゲルにニコニコしやがって俺には無表情」
そんなことで拗ねてたらしい。
案外、可愛い所もある。
最初から大人って感じがする人じゃなかったけど、今でもこの人と本当に10歳離れてるのか考える時がある。
カオルは出会った時からあたしを10歳年下の女だってわかってた。
それでもこうして恋愛対象として見てくれたし好きでいてくれてる。
あたしも自分より10歳も年上の男の人と付き合うなんて思いもしなかった。
最初こそ恋愛対象だなんてふざけてると思ってたけど、カオルの言葉に心を開いちゃって今では隣にいることも一緒に眠ることも当たり前になっている。
それでもこうして何気ないふとした瞬間に“カオルはあたしのどこを好きになったんだろう”とか“あたしと付き合ってることが時間のムダにならないか?”とか隣でコーヒーをすする姿を見て何度も考えたりした。
その度にカオルが笑ってくれるから安心した。
今日会ったシゲルさんはカオルと同じ歳で子供もいる。
同じ歳のカオルは10歳も年下のあたしと付き合って将来や未来なんて見えないでいるに違いない。
あたしはまだ若い。
結婚なんて考えたことないし若さゆえの“今”一緒にいれれば幸せだということの方が気持ち的に大きい。
だけどカオルはそんなことを言うほど若くはないし結婚だって考えるのかもしれない。
焦ってるようには見えないし、焦っていたらあたしとは付き合ってないだろうけど、こんなことで時間を潰していいのだろうかと考えてしまう。