Maybe LOVE【完】



「なんだ?なんか言いたそうだな」

そんなことを考えるあたしの顔を見て、それこそ無表情で見下ろされる。

今までは好きな気持ちだけで相手の将来まで考えることなんてなかったけど、カオル相手だと色々考えてしまう。

これも大人の男と付き合うにおいて考えなきゃいけないことなのかもしれないけど、気持ちだけで一緒に歩んでいいかどうかなんて考えるあたしはバカなんだろうか。

キスしたって身体を合わせたって生きてきた時間は変えようがない。

あたしとカオルとの間には10年の時間が空いてる。
それを埋めるのは互いを想う気持ちしかないことはわかってるけど最善を選ぶのはどうもあたしには難しい。

「カオルさ、結婚したいとか思わないの?」

色々考えた結果、なんとなく聞いてみた。
反応は当然「はぁ?」って言われたけど、数秒あたしを見てから溜息吐いた。

別に溜息吐くほどの言葉じゃないような気もするけど、カップを置いてあたしを見たからあたしはカップに口をつけてコーヒーを飲むふりをした。

「何考えてんだ?」
「別に」
「じゃあなんで結婚とか言うんだよ」
「なんとなく」
「ちゃんと答えろ」

あたしの手からカップを取り上げる。
毎度のごとく気を逸らすモノをとられて向き合う体勢にさせられる。
こうしないとあたしが話さないからだけど。

「……ほんとにちょっと思っただけだけど、カオルはあたしと付き合ってても将来を考えることってないよなーと思って」
「まぁな」

即答かよ、と思った。
なんだか複雑になった自分にも驚いた。

「ていうか、将来を考えるならお前と付き合ってない。お前より家事が出来て気が利く女はいっぱいいるからな」
「だよね」
「でもそういう女よりお前と同じ時間を共有する方が俺は選んだ。今すぐどうって話じゃない。お前はシゲルに会って変なこと考えたんだろうけど、俺は結婚が全てだとは思わないし、その為にお前をどうこうするつもりはない」

なんて返事を返していいのかわからなくて視線を逸らしたままカオルの手を見てた。

左手にはお揃いの指輪。
休みの日はつけてくれていて、あたしも休みの日だけ左薬指についてる。

なんの形式ばったモノもない“恋人の証”という意味の指輪。
これが将来を共に歩むと誓い合えば結婚指輪に変わる。

ただ縛られているだけの指輪に目を向けるとなんだかただの指輪に見えてしまった。

「なんだよ。俺と一緒に未来を歩みたくなったか?」

意地悪くからかうカオルの言葉にそうなの?と自問自答した。
今まで考えたこともなかったけど、近い将来、カオルの隣に違う女の人がいるところを想像したくはない。
出来ればその時もあたしが隣に立っていたいと思うし、それがずっと続けばいいと思う。

永遠なんて生きていかなきゃわかんないし約束するものでもないと思ってた。
それでもその言葉だけで強くなれるし安心することも出来る。

「またいらんこと考えてんのか?それとも将来の約束が欲しいか?」

カオルは笑うけど、あたしは笑えない。
このまま何事も無く過ごしていくことが何よりも幸せだけど、でもカオルのことを考えてこれが壊れる日が来ることなんて考えたくない。

そう思えば永遠を誓う言葉が欲しくなる。
未来なんてわからないって思ってても離れ離れになってしまうなら今すぐにでも永遠に一緒にいられる約束をたてて欲しいと思ってしまう。
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