Maybe LOVE【完】
「おい」
おいって呼ばないでよ、と寝てたのか、目を瞑っていただけなのか、よくわからない感覚の中、起こされた。
目を開けて見えた光景は
「駐車場‥‥?」
何台も車が止まっていて、しかも地下駐車場みたいで、ここがどこなのか全くわからない。
「降りろ」
偉そうな物言いにイラッとする。そして、その声が少し頭に響く。
酔わないと思って飲んできたお酒が気が抜けた今、少しずつ回り始めているんだろう。
少し頭が痛い。
「おい、早くしろ」
すでに運転席から出て、助手席に回ってきたこの人は外からドアを開けて私に出ろと促す。
頭が痛いんだから大きな声を出さないで、と思いながらも、車にアンタの香水が移ってるじゃない、と顔をしかめた。
私の車なのに、私の車で男の人の匂いがするなんてありえない。
帰ったら消臭スプレーふろう、なんて考えながら車から出ると足元が覚束なくて、崩れそうになったのを支えられた。
「今頃、酒まわしてんじゃねぇよ」
面倒くさそうに言うから、支えてくれてた腕を振り払う。
「自分で歩けるわよ」
「ふらついてるくせに」
「うるさいっ」
なんだかんだ言っても私の足は普通には動いてくれなくて、結局、支えられながらエレベーターに乗り込んだ。
「どこなの、ここ」
ボーっとする頭で自分は手放しちゃいけない、と思うから必死に何か話して自分を保とうとするんだけど、一度回り始めたお酒はもう止まりそうにない。
呂律も意識も低感覚に途切れそうになる。だけど、エレベーターを降りて、通路を歩いて、ある部屋の前で私の足は止まった。
さすがに止まった。
「なんだ?」
私が足を止めたから、くんっと引っ張られた男が歩き始めてから初めて私を見た。
男は自分のポケットからキーを取り出して、ガチャリとキーを回すと開いた扉。
考えなくてもわかった。
これは間違いなくこの男の家だと。
「早く来い」
わずかな抵抗として、ぐぐっとつっぱってみたけど、酔いがまわってる私の抵抗なんて、軽く引っ張られただけでも何の意味もなさなくて家の中に入れられる。
とうとう入ってしまった。
この男の家に入ってしまった。
入っちゃって今更だけど、運転中に目を瞑らないでもっと抵抗してりゃよかった、と後悔した。
「なんだ?」
玄関で躊躇する私に先に部屋に入った男は戻ってきて、私の腕をさっきと同じように支えて、靴を脱ぐように促す。
―――ありえない、一体どこまで流されたら許してもらえるんだろう。
そう思ってたら、スッと手が伸びてきてサンダルを脱がしにかかる。
「こんな靴履いてくるな」
面倒くさい、とブツブツ言いながらも脱がしてくれる男は私が裸足になったのを確認すると腕を引っ張って中へ移動する。
男の匂いがする。
部屋中にこの男の匂いがする。
香水とか、そんな匂いじゃなくて、“男”の匂いがする。
―――嫌な匂いだ、そう思った。