Maybe LOVE【完】

―――――
―――

「んー・・」

目が覚めた。でも、目は開けていないから、これが夢か現実かはわからない。

なんだか嫌な予感はする。
うっすらと目を開けると、そこは知らない場所。

ベッド、にいる。
布団が掛けてあるし、前にも背後にも人はいない。ただ、どこからか物音は聞こえる。

「起きたか?」

ドアに背を向けて寝ている私はその声に返事をせずにベッドサイドに置いてある時計で時間を確認した。
まだ朝の6時で、寝すぎなかったことにホッとした。

「俺のことは無視か」

背後からというか、耳元で聞こえた声に思わず布団を被りこむ。
「おい、コラ」と怒った声と布団に染み付いた男の匂いで頭まで被りこんだ布団を口元まで隠して顔だけ出した。

「気分は」
「悪くない」
「頭痛は」
「無い」
「他に言うことは?」
「お風呂貸してください」

・・・数秒の沈黙。

「お前、厚かましいにも程があるぞ」

チッと舌打ちをしたけど、「出て左だ」と貸してくれるあたり、優しい人みたいだ。

「・・・ありがとう」

男が部屋を出るときに振り返ってそう言うと、一瞬目を見開いて「早く入れ」と言われた。
なんだか見た目と言葉遣いに似合わない優しさに思わず笑ってしまう。酔っていたといえども記憶はちゃんとある。

お風呂場に向かい、とりあえず置いてある洗顔で顔を洗う。クレンジングで洗ったわけじゃないからメイクが落ちたわけじゃないけど、よれたメイクも流れて少しさっぱりした。
何か礼をしなくちゃいけないとは思ってるんだけど、料理は出来ないし今後会うこともないだろうから、先輩に頼もうか。そんなことを早朝なのになぜか湯船にお湯が張ってあることに笑いながら考えていた。

お風呂から上がると男の隣を無言で通り過ぎて、バッグに入ってる常備用のコットンのメイク落としを持ってまた洗面所に戻る。
あとは洗顔をまた少し拝借した。なぜか置いてあった使い捨ての歯ブラシも借りた。
髪を持っていたシュシュでオールバックでくくり、男のいるリビングに戻った。

「変わらないな」

私のスッピンの顔を見てフッと笑うと「飯食えるか?」と聞いた。

「食べれるけど、帰る」
「は?」
「昨日はありがとう。もう大丈夫だし、これ以上迷惑掛けられないから帰る。あ、お礼は先輩に渡すから」
「お前はバカか」

話しながら荷物が置いてあった寝室に向かおうとしたのを、バカの一言で足が止まる。

「そう簡単に帰れると思うな、バカ」

振り返ると呆れた顔で私を見てる。聞こえるくらい大きな溜息吐くからムカついた。

「バカバカ言わないで。昨日はともかく、迷惑だって思うから帰るって言ってるのに」
「とりあえず、飯食え」

またもや言葉を遮られて、イライラするけど昨日の今日で開き直った私はテーブルに並べられた朝食の前に座った。
食パンに目玉焼きにベーコンにコーヒー。
喫茶店のモーニングみたいな朝食だけど、何も言わずに食べた。
「いただきます」と言うと「どうぞ」と返ってきた。

「これ食べたら帰る」
「ダメだ」
「ふぁんでよ」
「口にモノ入れながら喋るな」
「・・・なんでよ」
「昨日は介抱してやったんだ。今日は俺に付き合え」

フン、と言い返させない条件を出されて、言葉に詰まる。

確かに昨日は介抱してもらったけど、帰れるって言ったのに、ここへ連れてきたのはこの男だし、私が介抱してくれって頼んだわけじゃない。

「なんだ、その顔は」

じっと睨んでいたことに気付いたのか、眉間に皺を寄せて、逆に睨まれた。

「なんか文句はあんのか?」
「無い、です」

そうだろう、と笑顔を見せた男が憎い。
唯一の休みをこの男と過ごすなんて。
< 7 / 29 >

この作品をシェア

pagetop