SCARLET
茜はバス停で華夏を待っていた。熱風に吹かれて柔らかい茶色の髪がなびく。そろそろ時間だというのに華夏はまだ来ない。不意に人の気配を感じ、彼女は振り向いた。それは涼だった。彼は茜に気がつかないまま、歩いていく。そして急に立ち止まると枝にいたアゲハ蝶を掴んだ。「あっ」思わず茜は声を上げた。そのまま彼は掴んでいるアゲハ蝶の羽をむしった。黒い破片が宙に舞う。それは狂気的ながらも美しい光景だった。茜はそれに見入っていた。

「どうしたの?」聞き慣れたなめらかな声で彼女は我に帰った。いつの間にか背後には華夏が立っている。溢れ出るその美しさに、茜は嬉しさと羨ましさの混じったため息をついた。最近華夏はどんどん綺麗になってきている。黒い髪はさらに艶やかさを帯び、唇は濡れたように赤い。だが、茜はどう頑張っても華夏のようにはなれないことを知っていた。憧れたままの方が幸せであることも、知っていた。

2人は仲が良いはずなのに、ほとんど会話をしない。茜は物思いにふけっている華夏をそっと眺めていた。華夏は、強い。どんなに辛いことがあろうとも決して涙は見せない。その反面何を考えているかも全く分からない。「ねえ、華夏?」なんとなく淋しくなって、茜は名前を呼んでみた。「うん。」その声は、何を考えていたのか、とてもなまめかしかった。
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