SCARLET
小太郎は消しかすを練りながらぼーっと窓の外を眺めていた。蝉がうるさく鳴いている。斜め前に涼がいるせいであたりは女の子だらけだった。彼女たちの自分と涼への態度の違いには慣れっこだが自分は別に涼に対して妬みや憧れは持っていない。むしろいつでも王子様対応であることは尊敬しているくらいだ。あんなに作り笑いを浮かべて、嫌そうなのに。

確かに彼は中性的で彫りの深い甘い顔立ちをしている。それで微笑みかけられると女の子なんてイチコロかもしれない。しかし小太郎は幼なじみの感で、その微笑みが巧妙な作り笑いであることに気が付いていた。女の子相手に限らず、最近の涼は作り笑いしかしていない。助けてあげたいが、小太郎自身、その闇を覗くのがとても怖かった。

ずっと見ていたせいか、涼はこっちを振り向いた。目が合ってしまった。彼はいつもの作り笑いをしていたが目は暗く、光が見えない。2人は数十秒見つめ合っていた。視線を逸らしたいのだが何か強い力に引き留められ、それができないのだ。やがて小太郎は意思を振り絞って顔を背けると、トイレに駆け込んだ。いつの間にか息を止めていたようだ。緊張で心臓がどきどきしていた。

一息ついて、彼は考えた。どうしよう。もう一度教室に戻れる気がしなかった。かといってさぼって遊びに行くことも出来なかった。目の前の鏡には赤らんだ丸い顔。あの闇から抜け出してまだ生きていることが奇跡のように思えた。床にへたり込んだまま、小太郎は意識を手放した。
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