君は生徒、愛してはいけない
卒業式当日、まだ生徒がひとりも来ていない教室に行って、教壇に立ってみた。
担任を持ったクラスの卒業生を送り出すのは人生で初めてだ。
ひとつひとつ席を見渡して、この2年間を振り返るとなんだかとても寂しくなって、少しだけ涙が出た。
『あれ?先生おはよ』
『ひとりでなにしてんのー?』
生徒が来て俺は必死に涙を隠しておはよう、と返す。
次々に生徒が登校してきたので、一旦職員室に戻ってコーヒーを飲むことにした。
「あっと言う間に卒業だねぇ」
松本先生も切なげに窓の外を見ている。
「楽しかったですね」
「なに?今日で終わりみたいに。やめてよ」
「いえ、もちろん明日からもよろしくお願いします」
俺と松本先生はふたりでははは、と笑い合った。
式が始まると生徒はどんどん泣き始め、松本先生は隣で号泣している。
つられて俺も泣きそうになったが、華がいるところで泣くのは二度と嫌だったのでぐっとこらえた。
卒業生が退場するとき、教師たちで花道を作る。
1組から順番に退場していき、華が俺の前を通った。
華は全然泣いていなくて、むしろ清々しい顔をしていた。
華の背中を目で追いかけると、華は突然振り返ってにこっと笑いかけてきた。
華はよく笑うようになった。
2年の初めは一匹狼で、
家のためにスナックで働いて、
だんだん話してくれるようになって、
公園で泣いて、
おばあさんとご飯を食べて、
おばあさんが入院して、、、
華と出会ってからのことを順番に思い出すと、俺も松本先生の隣で少しだけ泣いてしまった。