じいちゃんのハンバーグカレー
「ジロ。朝だよ。起きなさい」
明るい日差しが目に飛び込んで、俺はゆっくりまぶたを開けた。
夜が明けたんだな。
「おはよう。ジロ」
母ちゃんが笑ってほっぺたを両手でつつんだ。
「さ、朝ごはん、食べよう」
テーブルの上には、ご飯と豚汁、焼鮭と、ほうれん草とベーコンの炒め物、それにオレンジが剥いてあった。
「朝から豚汁?すげえ豪華じゃん!」
俺は豚汁が好きだから、喜んで席についた。
「ジロが好きだと思ったから、ちょっと気合いいれてみたんだ」
言いながら、母ちゃんはお茶を入れてくれた。
小学生になってからは、朝も早く、母ちゃんも仕事をしてたから、朝ごはんをゆっくり食べることも少なくなったけど、小さい頃は、こうして母ちゃんと二人で、のんびりご飯を食べていたことを思い出したよ。
食事が済むと、母ちゃんは台所でなんかごそごそやってて、しばらくしてから風呂敷に包んだ何かと、冷たいお茶のコップをのせたお盆を持ってきた。
風呂敷をご飯のテーブルに置くと、お盆を座卓に置いて、二人分の冷茶を並べる。
「ちょっと一服」
朝のワイドショーを見ながら、俺たちはのんびりお茶を飲んだ。
じわじわしたセミの声と、風鈴の涼しい音が夏を教えてくれたよ。
お茶をのみおわるころ、母ちゃんが言った。
「ジロ。お弁当持って、少し遊びにいこうか」
「行く行く!どこに行く?」
「そうだな。葵城公園なんかどう?」
「葵城公園!やった!早く行こうよ!」
お前も知ってるな?葵城公園。駅の近くの公園だ。
楽しい遊具がたくさんあるところだ。
「じゃ、着替えて歯をみがいて、ちゃんとトイレに行っておいで」
「オッケー!」
俺は急いで着替えて、歯をみがいて、トイレを済ませて、玄関で靴に履き替えた。
後からお花見弁当みたいな風呂敷包みを下げた母ちゃんが来て、いつもみたいにドアに手をかけた。
ドアを閉めるとき、母ちゃんの顔がなんだか少し寂しそうに見えたけど、いつもみたいに忘れ物を心配してるんだろうと思って気に止めなかった。
いつもの道を、手をつないでバス停まで歩き、バスの中では、いつもみたいに手遊びしながら、俺たちは目的の停留所でバスを降りた。
バス停から10分くらい歩くと、葵城公園だ。
俺が幼稚園の頃には、ここの広場で幼稚園フェスティバルってのがあってな、市内の幼稚園が集まって各幼稚園ごとにテントがあって、そこで出し物をするんだ。
迷路やダンスをする幼稚園もあったが、工作をする幼稚園が多かったな。
俺は忍者の手裏剣や、刀、ヒーローのお面なんかが作りたくて、でも、子供はそういうのが大好きだから、そこの幼稚園のブースは人気でな、いつも母ちゃんと一緒に長い列に並んで作った。
その広場から少し離れたところに遊具のある公園がある。
休日なんかは人でいっぱいになるけど、その日はあんまり人もいなくて、俺は思い切り遊具を使って遊んだ。
一人で遊ぶのに飽きると、母ちゃんを引っ張って来て、一緒に滑り台をやったりジャングルジムをやった。ブランコも押してもらったし、鬼ごっこもした。
遊具広場に飽きると、少し離れた場所にあるアスレチック広場に行った。
広い草原を走り回って、思う存分アスレチックで体を動かして、こおりおにや、かくれんぼをした。
気がついたら腹がぐーっと鳴ってた。
「母ちゃん、お腹すいたよ」
「よし。じゃ、お昼にしようか」
母ちゃんはビニールのシートを広げた。
風呂敷に包まれた、花見弁当みたいな大きな弁当箱には、おにぎりと、からあげと、コロッケと、ほうれん草ののり巻きと、タコの形のウインナー。それから、甘い卵焼きがきれいに並べてあった。
難しい料理は何もない。
母ちゃんの、素朴な味の弁当だ。
遠足の時、運動場の時、動物園に行くとき、富士岡山にある遊園地、ぐるりんぱに行くとき、小さなころから慣れ親しんだ、母ちゃんの味の弁当。
鮭のおむすびを頬張りながら、からあげと卵焼きを皿にとる。
「欲張るとこぼすよ」
言いながら、こぼれないように皿を置いてくれて、母ちゃんもおにぎりを一口食べた。
「うん。おいしいね。ジロ」
「うん。卵焼き最高!」
甘い卵焼きは俺の大好物だった。
「やっぱ卵焼きは甘い方が好きだなあ。最近、だし巻き玉子ばっかりだったから」
俺はあれっと思った。
母ちゃんの卵焼きは、いつも甘い卵焼きだ。
俺はいつ、だし巻き玉子なんか食べたんだろう。
母ちゃんはそれに気づいたのか、わからなかったのか、俺のお皿になしの剥いたのを取ってくれた。
俺は深く考えるのが苦手でな。
甘いなしをたべたら、そんなだし巻き玉子のことなんかどうでもよくなって、母ちゃんとのんびり弁当を食べた。
太陽はぎらぎらしていて、とっても暑かったけど、ゆったりしていて、のどかで、まるで春の日みたいな時間だった。
明るい日差しが目に飛び込んで、俺はゆっくりまぶたを開けた。
夜が明けたんだな。
「おはよう。ジロ」
母ちゃんが笑ってほっぺたを両手でつつんだ。
「さ、朝ごはん、食べよう」
テーブルの上には、ご飯と豚汁、焼鮭と、ほうれん草とベーコンの炒め物、それにオレンジが剥いてあった。
「朝から豚汁?すげえ豪華じゃん!」
俺は豚汁が好きだから、喜んで席についた。
「ジロが好きだと思ったから、ちょっと気合いいれてみたんだ」
言いながら、母ちゃんはお茶を入れてくれた。
小学生になってからは、朝も早く、母ちゃんも仕事をしてたから、朝ごはんをゆっくり食べることも少なくなったけど、小さい頃は、こうして母ちゃんと二人で、のんびりご飯を食べていたことを思い出したよ。
食事が済むと、母ちゃんは台所でなんかごそごそやってて、しばらくしてから風呂敷に包んだ何かと、冷たいお茶のコップをのせたお盆を持ってきた。
風呂敷をご飯のテーブルに置くと、お盆を座卓に置いて、二人分の冷茶を並べる。
「ちょっと一服」
朝のワイドショーを見ながら、俺たちはのんびりお茶を飲んだ。
じわじわしたセミの声と、風鈴の涼しい音が夏を教えてくれたよ。
お茶をのみおわるころ、母ちゃんが言った。
「ジロ。お弁当持って、少し遊びにいこうか」
「行く行く!どこに行く?」
「そうだな。葵城公園なんかどう?」
「葵城公園!やった!早く行こうよ!」
お前も知ってるな?葵城公園。駅の近くの公園だ。
楽しい遊具がたくさんあるところだ。
「じゃ、着替えて歯をみがいて、ちゃんとトイレに行っておいで」
「オッケー!」
俺は急いで着替えて、歯をみがいて、トイレを済ませて、玄関で靴に履き替えた。
後からお花見弁当みたいな風呂敷包みを下げた母ちゃんが来て、いつもみたいにドアに手をかけた。
ドアを閉めるとき、母ちゃんの顔がなんだか少し寂しそうに見えたけど、いつもみたいに忘れ物を心配してるんだろうと思って気に止めなかった。
いつもの道を、手をつないでバス停まで歩き、バスの中では、いつもみたいに手遊びしながら、俺たちは目的の停留所でバスを降りた。
バス停から10分くらい歩くと、葵城公園だ。
俺が幼稚園の頃には、ここの広場で幼稚園フェスティバルってのがあってな、市内の幼稚園が集まって各幼稚園ごとにテントがあって、そこで出し物をするんだ。
迷路やダンスをする幼稚園もあったが、工作をする幼稚園が多かったな。
俺は忍者の手裏剣や、刀、ヒーローのお面なんかが作りたくて、でも、子供はそういうのが大好きだから、そこの幼稚園のブースは人気でな、いつも母ちゃんと一緒に長い列に並んで作った。
その広場から少し離れたところに遊具のある公園がある。
休日なんかは人でいっぱいになるけど、その日はあんまり人もいなくて、俺は思い切り遊具を使って遊んだ。
一人で遊ぶのに飽きると、母ちゃんを引っ張って来て、一緒に滑り台をやったりジャングルジムをやった。ブランコも押してもらったし、鬼ごっこもした。
遊具広場に飽きると、少し離れた場所にあるアスレチック広場に行った。
広い草原を走り回って、思う存分アスレチックで体を動かして、こおりおにや、かくれんぼをした。
気がついたら腹がぐーっと鳴ってた。
「母ちゃん、お腹すいたよ」
「よし。じゃ、お昼にしようか」
母ちゃんはビニールのシートを広げた。
風呂敷に包まれた、花見弁当みたいな大きな弁当箱には、おにぎりと、からあげと、コロッケと、ほうれん草ののり巻きと、タコの形のウインナー。それから、甘い卵焼きがきれいに並べてあった。
難しい料理は何もない。
母ちゃんの、素朴な味の弁当だ。
遠足の時、運動場の時、動物園に行くとき、富士岡山にある遊園地、ぐるりんぱに行くとき、小さなころから慣れ親しんだ、母ちゃんの味の弁当。
鮭のおむすびを頬張りながら、からあげと卵焼きを皿にとる。
「欲張るとこぼすよ」
言いながら、こぼれないように皿を置いてくれて、母ちゃんもおにぎりを一口食べた。
「うん。おいしいね。ジロ」
「うん。卵焼き最高!」
甘い卵焼きは俺の大好物だった。
「やっぱ卵焼きは甘い方が好きだなあ。最近、だし巻き玉子ばっかりだったから」
俺はあれっと思った。
母ちゃんの卵焼きは、いつも甘い卵焼きだ。
俺はいつ、だし巻き玉子なんか食べたんだろう。
母ちゃんはそれに気づいたのか、わからなかったのか、俺のお皿になしの剥いたのを取ってくれた。
俺は深く考えるのが苦手でな。
甘いなしをたべたら、そんなだし巻き玉子のことなんかどうでもよくなって、母ちゃんとのんびり弁当を食べた。
太陽はぎらぎらしていて、とっても暑かったけど、ゆったりしていて、のどかで、まるで春の日みたいな時間だった。