難攻不落な彼に口説かれたら
少し咎めるような口調。

その声はよく知った声で……。

「小野寺君?」

驚いて顔を上げれば、小野寺が清掃員姿でモップを持って私を見据えていた。

「ここからが面白いんじゃん。最後まで聞いたら?俺がこんなこと言うのはすっげー不本意だけど、あのクソ真面目な仁が浮気なんかするかよ」

小野寺君は言い方は少し乱暴だったけど、優しい目をして微笑んだ。

そうだ。

何逃げてるんだろ、私。

仁は言葉でも態度でもいつも私に『好きだ』って伝えてくれるじゃない。

再びトイレの方に目を向けると、仁の声がした。

「君は雪乃じゃないから。悪いけど、彼女以外の人間には興味がないんだ」

そんな仁のセリフを聞いて、ジーンと目頭が熱くなる。

「よかったじゃん」
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