難攻不落な彼に口説かれたら
小野寺君の声に後ろを振り返ったけど、もうそこに彼の姿はなかった。

桃園さんが、嗚咽を漏らしながら走り去る。

ボーッと彼女の後ろ姿を見送ると、仁の声が後ろから聞こえてギクッとした。

「雪乃?何してんの?」

「あの……その……トイレに行こうとしたら仁の声が聞こえて……それで、ふたりの会話……聞いちゃった」

仁を振り返り、しどろもどろになりながら告白する。

「ごめん。心配かけたね」

仁は私の髪を撫でると、謝った。

私の目が潤んでいたからかもしれない。

「ううん。大丈夫だから」

仁を安心させるように笑ってみせる。

「トイレはもういいの?」

「ちょっとお化粧を確認したかっただけなの」

ちょっと気まずいなって思っていると、仁にクイッと顎を掴まれた。
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