難攻不落な彼に口説かれたら
「散策するんじゃなくて、お湯に入るんだね。面白そう」

車を降りると、 宿の仲居さんがやって来て私達の荷物を運んでくれた。

今日泊まる宿は大正四年に建てられた三階建ての建物で、国の重要文化財にも指定されている。

大正ロマンを感じるレトロな外観に思わず見入ってしまう。

宿のフロントでチェックインを済ませると、宿の人に「好きな浴衣を選んで下さい」と言われた。

フロントカウンター横にある台の上に、色とりどりの浴衣が並んでいる。

「わ~、いっぱいあって悩んじゃう。どれがいいかな?」

適当に何枚か浴衣を手に取ると、胸に軽く当ててみた。

「雪乃は、紫かピンク系が合うかな。これはどう?」

仁が手に取ったのは紫陽花柄で古風な薄紫の浴衣。

「あっ、それ綺麗だね」
< 252 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop