難攻不落な彼に口説かれたら
そう言えば、ポケットのスマホがブルブル振動してたっけ。
「古賀さんが……俺をねえ」
何か嫌な予感がする。
今度は仁に連行されるような形で経営企画室に戻れば、古賀さんが見たことない女子社員と話していた。
俺達の気配に気づき、古賀さんは「片岡、サンキュ」と仁に礼を言うと、次は俺に目を向けた。
「小野寺、お前に今日うちに配属になった新人を紹介する。高崎さんだ」
古賀さんの紹介に、高崎さんは俺に向かってペコリと頭を下げる。
ああ……新人の配属って今日だったっけ。
「高崎春香です。よろしくお願いします」
メガネをかけたおかっぱ女。
服装も地味でパッとしない。
だが、一応会社で猫を被っている俺は、ニコッと微笑んだ。
「小野寺です。よろしくお願いします」
「お前今日から高崎さんの指導員な。しっかり教えてやるんだぞ」
古賀さんの命令に、俺は思わず「あぁ?」とドスの効いた声で聞き返した。
「小野寺、地が出てるぞ」
声を潜めて俺に注意する古賀さんに、俺は仏頂面で言う。
「お断りします」
指導員なんてメンドーなもん、誰がやるか。
俺はチラリと、今年の新入社員に目を向けた。
「上司の命令には素直に従わなきゃいけないな。そんなに南米の僻地に行きたい?せっかく雪乃が社長に取りなしてくれたのに、それを水の泡にする気か?」
従兄の仁が俺の肩に手を置き、顔を近づけて俺を脅す。
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