難攻不落な彼に口説かれたら
そう、雪乃先輩を襲って年末は罰として清掃員をやらされた俺だが、彼女が社長であった叔父に直談判してくれたお陰で経営企画室に無事に戻ることが出来た。
本当なら、この四月からアルゼンチンに飛ばされる予定だったらしい。
周囲の同僚も俺は関連事業所に研修に行っていたと思っている。
あの事件についても、一部の人間しか知らない。
ただ、席替えはあって、雪乃先輩とは離れた。
「小野寺、俺の下で働いてた方が楽だし、命の危険もないぞ」
古賀さんは、俺を見て楽しそうにからかった。
だが、彼の目は〝俺に従え〟って言っている。
古賀さんと仁のふたりを相手にするのは、かなり分が悪い。
こいつら……。
古賀さんと仁をキッとひと睨みすると、「……わかりました」と渋々返事をした。
「優しく、丁寧にな、小野寺。それから、高崎さんの席はお前の隣だ」
前は雪乃先輩の席だった机を古賀さんは指差す。
自分の聖域を汚されるようで嫌だった。
遠慮がちに俺の横の席に来る高崎さん。
誰がこの席に座っても気に入らないかもしれない。
雪乃先輩は俺にとって特別な存在だった。
そんなことを考えていると、雪乃先輩がこちらにやって来た。
「高崎さん、これ文具一式ね。パソコンはすぐに使えるから。研修期間が終われば、名刺がもらえるから頑張って」
高崎さんに優しく微笑むと、雪乃先輩は文具が入った袋を手渡した。
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