難攻不落な彼に口説かれたら
片岡君は腕時計に目をやると椅子から立ち上がった。

彼に言われるまま資料をメールで秀兄に送ると、彼と一緒にオフィスを後にする。

「今日は資料作成まで手伝ってもらってすみません。
鯛飯もご馳走さまでした。……では、お疲れ様です。コホッコホッ」

何を話していいかわからず、ペコッと頭を下げて挨拶するが、咳で胸が苦しくなってきた。

これは……マズイ。早く帰って寝なきゃ。

最寄駅に向かおうとしたら、なぜか片岡君に腕を掴まれた。

「ちょっと待って」

「片岡君?」

呼び止められたことに驚いて、片岡君を振り返る。

「そんな青い顔してるのに電車で帰らないでくれる?」

咎めるような口調で言うと、片岡君は右手を上げてタクシーを呼ぶ。
< 28 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop