難攻不落な彼に口説かれたら
彼女の左手に光る指輪。
古賀さんが、仁がプレゼントしたものだと俺にわざわざ教えてくれた。
ふたりは、今秋結婚する予定らしい。
キラリと光るその指輪を見ていると、つくづく雪乃先輩は仁のなんだと思い知らされる。
彼女に未練はあるが、もう無理矢理奪う気はない。
雪乃先輩が、仁といて幸せならそれでいい。
それに、悔しいけど仁と一緒の彼女は、とても幸せそうに笑うのだ。
俺にはそんな風に笑わせることは出来なかった。
「小野寺君も指導員頑張れ!」
雪乃先輩はポンと俺の背中を叩いて柔らかな笑みを浮かべると、古賀さんの席にスタスタと向かう。
その後ろ姿をボーッと眺めていると、高崎さんに声をかけられた。
「あのう……小野寺さん、私……何をすればいいでしょうか?」
「あっ……、まずは……パソコン立ち上げてログインして」
ハッと我に返り、高崎さんに指示を出す。
「はい」
そう返事をすると、高崎さんはパソコンの電源を入れ、キーボードを操作した。
彼女がログインすると、背後から彼女のマウスをうばう。
その時、高崎さんがビクッと震えた。
だが、気にせずマウスを動かしてうちのイントラを表示させる。
イントラというのは、簡単に言うと社内のネットのシステムのこと。
「この画面で、経営企画室のみんなのスケジュールがわかるから」
「はい」
「あと、高崎さんはまだ新人だから、家に仕事を持ち帰らないこと。うちで扱ってる情報は社外秘のものが多いから、自分のプライベートのメールアドレスに仕事のメールを転送するのも禁止。わかった?」
< 280 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop