難攻不落な彼に口説かれたら
「この度は、弊社の高崎がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
そう言って取引先に頭を下げたことも何度もある。
その度に高崎さんは、今にも泣きそうな顔で謝るのだ。
わざとではないとわかっているのだが、何度もやられては堪らない。
「これで何回目だ。いい加減にしろよ。俺が注意したことちゃんと聞いてなかっただろ?」
怒鳴りつけるように怒れば、高崎さんは萎縮しながら俺に謝った。
「……そ、それは……その……。す、すみませんでした」
「謝ればなんでも許されると?学生じゃないんだよ!ちゃんと自分の行動に責任を持て!」
イライラが募って高橋さんを罵倒する。
なぜこんなミスを犯すのか……。
俺は素行は悪いが、頭は悪くない。
仁までとはいかないが、仕事も要領よくやっている。
だから、ミスを連発する高崎さんが理解出来なかった。
「……はい」
か細い声で返事をする高崎さん。
彼女はずっと俯いたままだ。
考えてみたら、高橋さんは話をする時に俺と目を合わせない。最初に会った時からずっとだ。
そういう態度もすげー勘に触る。
チラリと壁時計に目をやれば、午後八時過ぎ。
明日からGWの連休ということもあって、オフィスには今ふたりだけ。
「今日はもういい。帰れ」
髪をグシャッとかき上げると、高崎さんの顔も見ずに苛立ちながら言い放った。
「……すみません」
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