難攻不落な彼に口説かれたら
高崎さんはもう一度俺に謝ると、自分のバッグを持ってオフィスを後にする。
「ったく、今日も深夜残業か。あいつのせいで仕事が全然進まねえ」
盛大な溜め息をつきながら溜まったデスクワークに取り掛かると、社長室で打合せしていた仁の声がした。
「さっき高崎さんが泣きながらトイレに駆け込んで行ったけど、大丈夫なのか?」
「知るかよ」
吐き捨てるように言うと、仁が近づいてきて持っていた書類でパコンっと俺の頭を叩いた。
「いてっ。何する……‼︎」
文句を言おうとしたら、仁に怖い目で睨まれた。
「お前、彼女の指導員なんだろ?しっかりフォローしろよ」
仁の言葉にカッとなって言い返す。
「十分あいつの尻拭いはしてる!」
「お前、自分のことしか考えてないよね?雪乃がお前の指導員やった時、今のお前みたいに突き放してた?」
仁にそう言われてハッとする。
俺は高崎さんのようなミスはしなかったけど、入社したての頃は雪乃先輩のことを軽く見ていて平気で遅刻していた。
それで、雪乃先輩は毎朝俺にモーニングコールかけてきて……。
最初は無視していたが、結局根負けしてどんなに夜遊びして眠くても朝ちゃんと遅刻せずに出勤するようになった。
モーニングコール……二ヶ月はされてたな。
親には放置されてたのに、雪乃先輩は俺をずっと気にかけてくれて内心嬉しかったんだ。
今は懐かしい思い出。
叔父に言われて仕方なく入った会社だったが、雪乃先輩がいたからずっとここで働いているんだと思う。
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