難攻不落な彼に口説かれたら
「高崎さん、待って!」
高崎さんの腕を掴んで呼び止めると、彼女は俺の手を振り払おうとする。
「いや!」
高崎さんの声を聞いて、慌てて手を離した。
「あっ、ごめん。さっきは怒り過ぎた。何もしないから落ち着いて」
少し高崎さんと距離を取り、努めて優しく声をかける。
大きく上下する彼女の肩。
かなり狼狽えてるな。
さっき怒鳴ったし、俺のことが怖いのだろう。
こういう場合、どう対処したらいいんだ?
立ち止まってはくれたが、高崎さんは命綱のようにギュッとバッグを握り締めている。
「……参ったな」
そう呟いて、ポリポリと頭をかく。
何を話していいのかわからない。
数十秒の沈黙。
相手が何を言うかなんて期待は出来ない状況だ。
「……ちょっと自販機のとこで何か飲まない?」
俺の提案に高崎さんはコクッと頷く。
それを見て先に自販機の方に向かうと、彼女もトボトボと俺の後をついてきた。
自販機の前に立ち、高崎さんを振り返る。
「何飲む?」
「……ミルクティーがあったらお願いします」
「ああ、これか」
ミルクティーを選ぶとスマホをかざした。
ゴトンと落ちた缶を拾い上げ直接渡そうと思ったが、やめた。「はい」と言って横の椅子に缶を置く。
「ありがとうございます。あの……お金……」
高崎さんは缶を手に取り、バッグから財布を取り出すが、「小銭貯まるの嫌だから」と言って断った。
自分はコーヒーを買って、椅子に腰かける。
「高崎さんも座ったら?」
そう声をかけると、高崎さんは両手で缶を持ったまま俺とは間を空けて座った。
缶の蓋を開け、ゴクッとコーヒーをひと口飲む。
< 285 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop