難攻不落な彼に口説かれたら
「もっと肩の力抜いたら?頑張り過ぎると疲れるよ」
「……そうですよね。でも……自分でもどうしていいのかわからなくて……」
高崎さんは、ギュッと唇を噛みしめる。
指導員を変えてもらうことは出来ると思う。
でも、それじゃあ高崎さんにとっても、俺にとっても何の解決にもならない気がした。
古賀さんは、高崎さんの事情を知っていたはず。
なのに敢えて俺を指導員に指名したのは、何か意図があってのことだろう。
「……俺にもう一度チャンスをくれないか?」
高崎さんに向かって頭を下げる。
「え?」
驚きの声を上げる高崎さんに、もう一度わかりやすく説明した。
「俺に高崎さんの指導員を続けさせて欲しい。今度はちゃんと真剣にやるから」
今まで古賀さんに命じられ仕方なくやっていた。
高崎さんが困っていても、どこか突き放した態度でいて……。
「小野寺さん、頭上げて下さい」
高崎さんの声に顔を上げると、彼女と目が合った。
すぐに顔を背けるかと思ったが、じっと俺を見つめてくる。
ガラス玉のように綺麗な瞳。
そこには一点の曇りもない。
「私、またご迷惑をお掛けするかもしれません。それでも、いいですか?」
高崎さんの問いに俺は即答した。
「いいよ。誰だって失敗はする」
俺だって完璧な人間ではない。
「よろしくお願いします」
高崎さんは綺麗な所作で頭を下げる。
「ミルクティー、飲みなよ」
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