難攻不落な彼に口説かれたら
俺がそう声をかけると、「頂きます」と言って嬉しそうに高崎さんは笑った。
それは、俺と高崎さんがまともに話をした日。
その日から、俺達は少しずつ変わっていった。



GWが終わると、俺は連休中に作ったマニュアルを高崎さんに渡した。
「おはよう。これ、仕事のマニュアル。今まで俺が説明してきたことが書いてある」
マニュアルは昔雪乃先輩にもらったものを参考にして、高崎さん仕様にもっとわかりやすくしてある。
「ありがとうございます」
マニュアルを胸に抱き、高崎さんはメガネ越しに小さく微笑んだ。
自販機でお互い腹を割って話したせいか、彼女はちゃんと俺の顔を見るようになった。
おどおどする場面が減って、仕事もだいぶ集中出来るようになった気がする。
よし、これで少し前進。
焦らずゆっくりやっていこう。
高崎さんがミスした時は注意したけど、もう感情に任せて怒ることはなくなった。
彼女の男性恐怖症も俺なりに配慮はしたんだ。
会議室や資料室に入る時は、俺や俺以外の男性社員とふたりきりにならないようにわざと他の女子社員に用を頼んだり……。
物を渡す時も、高崎さんに手が触れないように気をつけた。
そうして、少しずつ彼女と打ち解けて話をするようになって、ずっと気になっていたことを聞いてみる。
「そう言えば、高崎さんのメガネ、度が入ってないよな」
「メガネしてると安心なんです。人に直接顔を見られるのが怖くって」
「ふーん、なるほどね。俺もちょっとかけてみていい?」
「私のをですか?」
「そう。俺メガネってしたことなくて」
こうやってコミュニケーションを高崎さんと取るのもいいかと思った。
「いいですよ」
高崎さんはメガネを外して、俺に手渡す。
「これで少しは知的に見えるかな?」
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