難攻不落な彼に口説かれたら
「長いんだからちゃんと束ねたら?」

そう私に注意すると、男性はスタスタと社長室の方へ歩いていく。

「ごめんなさい」

彼の後ろ姿に向ってそう呟くと、ペコリと頭を下げた。

結局顔は見なかったけど、あの声はやっぱり聞き覚えがある。

でも、彼はアメリカに行ったはずだし……きっと気のせいだろう。

病み上がりだから、身体の感覚が鈍ってるのかもしれない。

「あっ、遅刻しちゃう!」

再びエレベーターに乗って、自分のオフィスに向かう。

席に着いた時には、かなり息切れしていた。

「そうだ!髪」

男性の注意を思い出し、デスクの引き出しを開けてシュシュを取り出すと、サッと髪をひとつに結んだ。
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