難攻不落な彼に口説かれたら

『降りるよ』

これ以上待ってはいられなかったんだ。

俺と一緒に中村さんもエレベーターを降りるが、その時彼女がバッグの中から小さなハサミを出してきてギョッとした。

それで髪を切るつもりか！

『お前は馬鹿か。切るなよ」

中村さんが髪を切る前に素早くハサミを掴んだ。

彼女の髪が短かった記憶なんてない。

大事な髪だろうに、こんなところで切るなよ。

少し苛立ちながら、手を伸ばして彼女の髪の毛を慎重に外した。

その間、じっと呆然と俺の手元を見ていた中村さん。

きっとまだ俺には気づいていないだろう。

まあ、また会うんだし、わざわざ教える必要はないって思った。

『長いんだからちゃんと束ねたら？』

中村さんにそう言うと、俺は彼女を置いて社長室に向った。