難攻不落な彼に口説かれたら
やっぱり。

元々飲み会などの集まりは嫌いだ。

今夜だって社長と古賀さんとの会食があるのに、これ以上下らない行事で貴重な時間を無駄にしたくない。

叔父が安心して闘病に専念できるよう、俺がもっと成長しなくては……。

『別にそんなのいいよ。師走だからみんな忙しいし』

即座に断るが、中村さんは引き下がらなかった。

『みんなとの親睦を深めるためです。互いを知るいい機会ですよ』

こういうところ、昔と変わらない。

俺に説教じみたことを中村さんは言う。

だから、そんな彼女を少しからかいたくなった。

『親睦ねえ。あそこにいるのが木村さん、斜め前の席にいるのが野田さん、その横が田中さん……、君の隣の席にいるのが小野寺、そして、君が……』

経営企画室の面々の名前をスラスラと口にし、中村さんの名前だけは故意に名札をじっくり見ながら言った。
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