極悪のHERO
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昼放課。 妙石高校は4限の後に1時間30分の少々長めの休息がある。
購買部ではパンや弁当、 文具や雑誌類まで売っているし、 ゲーム類の予約なんかもできてしまう程『充実』している。 さらに食堂では「料理研究部」と「家栽部」の合作料理が毎日振舞われる。
ゆえに、 この時間は教室に人がいなくなり、 ほとんどの生徒が一斉に廊下へと歩き出す。
彩葉と柚子も同様に廊下に出た。
しかし、 大半の生徒と目的は異なり。
「さぁ!いろはちゃん! いろはちゃんの気になっている みぎつき先輩のとこいくよ~!」
「ちょ……」
と、 柚子に彩葉が半ば引きずられるように出てきた。
──柚子、 意外と力強いっ!
「柚子! ついていくから!ついていくから!」
慌てて柚子を制止する。
「じゃあ、 はやくいこ?」
──なんでこの子、 ノリノリなの……
はぁ、 とため息が出る。
確かに気にはなっているし(ケガの良し悪し含めて)保健室に行く気にはなっていたけれど、 それ以上に『柚子と一緒に会いに行く』というのが気恥ずかしかった。
柚子はとてもいい子だ。
始業式以来、 ずっと仲良くしているからよくわかる。 けれど、 これまで異性に対してあまり積極的な感情を抱いたことのない彩葉にとっては、 『この気持ち』をたとえ親友であっても見せたいとは思わない。
なんとなく……気恥ずかしい。
「ほらぁ~彩葉ちゃん? こっちこっち!」
柚子はもうすでに踊り場まで下り、 次の階段に差し掛かっていた。
彩葉と柚子のクラス、 1年1組は二階の端のクラスで、 目の前に階段がある。 その階段を下り、 曲がって渡り廊下を通れば保健室がある。
「はいはーい。 今行くから……」
階段を下り、 踊り場で柚子と一緒になって次の階段を下りた。
曲がり角……。
なんとなく、 朝の光景が頭をよぎる。
家の前にある交差路は、 滅多に車が通らない。 それなのに猛スピードで来た車。
さらにそれに轢かれて無事な男。
印象的過ぎる光景だ。
「いろはちゃ……きゃぁ‼‼」
柚子が曲がり角を曲がったとたん、 正面衝突するように男子生徒が駆けてきた。
すぐ後ろにいた彩葉は突然のことに身体が一瞬でビクつく。
──あぶなっ……
思ったときにはすでに遅かった。
「……大丈夫かい? 1年生」
衝突。
しなかった。
正面衝突する瞬間、 ラグビーの選手が相手をかわすときのように一瞬で横に逸れ、 くるりと回ることで衝突を回避したのだった。
……なぜか、 お姫様抱っこして。
──……お姫様抱っこっ!!って突っ込むところはそこじゃない!
「柚子!ちょっと、 大丈夫!?」
お姫様抱っこされている柚子の顔を焦りながら除く。
「……はぇ?」
ぎゅっと瞑った目を薄めで開け、 気の抜けた声を発する柚子。
「ごめんね、 ちょっと急いでたんだ」
お姫様抱っこをしながら、 男子生徒は申し訳なさそうに顔を覗き込む。
「ケガはないと思うけど、 びっくりさせちゃったね」
スッとお姫様抱っこをやめて、 足から立たせてくれる。
「へ……あぁ、 あの……その」
何が起こったのか全く理解ができない柚子をよそ目に
「僕は君枝 秋(きみえだ あき)っていうんだ。 2年3組。 みんなからはあっきーって呼ばれているけれど。 それじゃっ僕は急ぐから」
秋と名乗った男子生徒はどひゅうっと風が起こりそうな勢いで再び走っていった。
「ちょっ! 先輩だからって! 危ないじゃない! 」
風のように現れ、 風のように去っていった秋。
「あとで2年の先生に報告しないと! 廊下は走ったらダメなのに!」
ぷんすかと怒る彩葉の横で「あっきー先輩……」と、 なぜか乙女の顔をしている柚子の、 昼休みはちゃくちゃくと終わりに近づいて行った。
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昼放課。 妙石高校は4限の後に1時間30分の少々長めの休息がある。
購買部ではパンや弁当、 文具や雑誌類まで売っているし、 ゲーム類の予約なんかもできてしまう程『充実』している。 さらに食堂では「料理研究部」と「家栽部」の合作料理が毎日振舞われる。
ゆえに、 この時間は教室に人がいなくなり、 ほとんどの生徒が一斉に廊下へと歩き出す。
彩葉と柚子も同様に廊下に出た。
しかし、 大半の生徒と目的は異なり。
「さぁ!いろはちゃん! いろはちゃんの気になっている みぎつき先輩のとこいくよ~!」
「ちょ……」
と、 柚子に彩葉が半ば引きずられるように出てきた。
──柚子、 意外と力強いっ!
「柚子! ついていくから!ついていくから!」
慌てて柚子を制止する。
「じゃあ、 はやくいこ?」
──なんでこの子、 ノリノリなの……
はぁ、 とため息が出る。
確かに気にはなっているし(ケガの良し悪し含めて)保健室に行く気にはなっていたけれど、 それ以上に『柚子と一緒に会いに行く』というのが気恥ずかしかった。
柚子はとてもいい子だ。
始業式以来、 ずっと仲良くしているからよくわかる。 けれど、 これまで異性に対してあまり積極的な感情を抱いたことのない彩葉にとっては、 『この気持ち』をたとえ親友であっても見せたいとは思わない。
なんとなく……気恥ずかしい。
「ほらぁ~彩葉ちゃん? こっちこっち!」
柚子はもうすでに踊り場まで下り、 次の階段に差し掛かっていた。
彩葉と柚子のクラス、 1年1組は二階の端のクラスで、 目の前に階段がある。 その階段を下り、 曲がって渡り廊下を通れば保健室がある。
「はいはーい。 今行くから……」
階段を下り、 踊り場で柚子と一緒になって次の階段を下りた。
曲がり角……。
なんとなく、 朝の光景が頭をよぎる。
家の前にある交差路は、 滅多に車が通らない。 それなのに猛スピードで来た車。
さらにそれに轢かれて無事な男。
印象的過ぎる光景だ。
「いろはちゃ……きゃぁ‼‼」
柚子が曲がり角を曲がったとたん、 正面衝突するように男子生徒が駆けてきた。
すぐ後ろにいた彩葉は突然のことに身体が一瞬でビクつく。
──あぶなっ……
思ったときにはすでに遅かった。
「……大丈夫かい? 1年生」
衝突。
しなかった。
正面衝突する瞬間、 ラグビーの選手が相手をかわすときのように一瞬で横に逸れ、 くるりと回ることで衝突を回避したのだった。
……なぜか、 お姫様抱っこして。
──……お姫様抱っこっ!!って突っ込むところはそこじゃない!
「柚子!ちょっと、 大丈夫!?」
お姫様抱っこされている柚子の顔を焦りながら除く。
「……はぇ?」
ぎゅっと瞑った目を薄めで開け、 気の抜けた声を発する柚子。
「ごめんね、 ちょっと急いでたんだ」
お姫様抱っこをしながら、 男子生徒は申し訳なさそうに顔を覗き込む。
「ケガはないと思うけど、 びっくりさせちゃったね」
スッとお姫様抱っこをやめて、 足から立たせてくれる。
「へ……あぁ、 あの……その」
何が起こったのか全く理解ができない柚子をよそ目に
「僕は君枝 秋(きみえだ あき)っていうんだ。 2年3組。 みんなからはあっきーって呼ばれているけれど。 それじゃっ僕は急ぐから」
秋と名乗った男子生徒はどひゅうっと風が起こりそうな勢いで再び走っていった。
「ちょっ! 先輩だからって! 危ないじゃない! 」
風のように現れ、 風のように去っていった秋。
「あとで2年の先生に報告しないと! 廊下は走ったらダメなのに!」
ぷんすかと怒る彩葉の横で「あっきー先輩……」と、 なぜか乙女の顔をしている柚子の、 昼休みはちゃくちゃくと終わりに近づいて行った。