「先生、愛してる」
『晩ご飯よろしく』
母からだ。ため息すら吐く気にもならない程慣れ切ったその内容を、私は躊躇もなく破り捨てた。
母はいつもこうだ。仕事こそ真面目に向かいはするものの、家庭のことはまっさらだ。
父はもう何年も家に帰って来ていない。お互いに仕事ばかりで、娘のことなど全く眼中にない。母も父に愛想を尽かして、別の男と不倫中だ。
その証拠にこのメモと、ソファに散らばる衣服と男女の体液。母は秋奈が眠りについた頃にこの家へ帰る。そして不倫相手とこのソファで情事に耽って仕事に行く。
なんて馬鹿らしい。この処理はいつも私だ。頼まれている訳ではないが、見ているだけで嫌気が差すのだ。
静かで、うざったい朝。いつも通りだった。
朝食を食べ終えると、家を出る。まぶしい朝日。今の自分には似つかわしくない程に、空は青く澄み渡っていた。