「先生、愛してる」
ふと顔を上げて辺りを見回すと、図書室に残っていた最後の一人が、帰宅の用意を済ませて出ていくところだった。
先生が生徒を入口まで見送り、また明日と手を振っている。図書室の扉を締めると、先生は受付カウンターの周りを整えて、いつも通り私の向かいの椅子に腰掛けた。
「今日はずっと上の空だね」
先生が言う。
「少し、考え事をしていて」
胸に引っかかる気持ちを抱えて、私は言った。
「ああ、あの男子生徒のこと?」
瞬間、ピクリと肩が跳ねる。やはり気づいていたのかと、ざわつくような思いが湧き上がる。つまり、私が図書室へ入ったときに放った"遅かったですね"はただのフリだったというわけだ。腰掛けた椅子の両端を、見えないところでぎゅっと握った。
秋奈が黙っていると、先生はうすら笑みを浮かべて言う。
「どうせ秋奈はここから離れられないんだ。だったら、気にする必要はない」
─────そうだろう?
先生の瞳は、相変わらず私のことを捉え続けている。彼は全く、心配などしていないのだ。私が、先生からいなくなるという可能性を微塵も感じていないというかのように。
「そうかもしれませんね」
私は言った。
先生は、私を信頼しきっているのか、はたまた不安に思っているのか。どちらの意図で言葉を発したのかは分からない。けれど、確かに感じるその視線に触れる度、私の心はどうしようもないほどに強く締め付けられる。誰にも有無を言わせないというかのその様は、実に彼の魅力でもあるのだろう。
「そういえば今日、夢を見ました」
「夢?」
先生は、不思議そうな顔をする。