「先生、愛してる」


「始まりの、あの日の夢を」


「ああ…」


わかりきった様子で先生は頷く。
今日、朝に目を覚ました時からこのことを彼に言おうと思っていた。懐かしくもあり忌まわしい、けれど愛しい、あの時のことを。


「あの日からだったね。深く関わるようになったのは」


笑みを浮かべて、先生は続けた。


「秋奈がずぶ濡れの姿で、涙を流しながら走ってきた時は驚いたな」


そうして、くくっと喉を鳴らす。

少しの羞恥心に見舞われながら、私は「もう」と膨れてみせた。



あの夢の後には、続きがある。

私はあのあと、何とか彼女たちのもとから逃げ出し、隠れ場所を探して必死に走り回っていた。その先で、真っ先に出会ってしまったのが、いつも通っていた図書室の司書─────つまり先生だったのだ。

自分自身、あのときの先生は"気持ちが悪い"という目でしか見ていなかった。いつも周りに優しく、にこにこしていて、裏が読めない。そんな人間味のない様子が、ただただおぞましくて仕方がなかった。他の生徒からは人気があるものの、私には到底理解し難い存在だった。

そんな先生に、水バケツを被った後の滑稽な姿で出会ってしまった衝撃は強いもので、ひどく自己嫌悪に走ってしまった記憶がある。

しかし、彼が助けてくれたというのも疑いようのない事実でもあった。先生に図書室で匿われ、私は確かに、恐怖に震えていたのだ。

先生は、私をひどく心配した。けれどきっと本心ではなかっただろう。あくまで"教師らしく"、話しかけてきた。


そんな様子の彼に対して、自分が放った言葉をよく覚えている。


─────何も出来ない、何もしないたかが教師のくせに、適当な心配も同情も要らない。


当時の自分に、教師という存在はそんな程度にしか見えていなかった。
昔からそうだった。口では正義の味方のような発言をして、実際に問題を目撃すれば見て見ぬふりをする。寒気がするほど意地汚くて、信用が出来ない存在。私にとって教師とは、その枠内に入るだけで嫌悪の対象だったのだ。


しかし、その時彼は言った。


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