「先生、愛してる」


特に感情を入れるでもなく、淡々と言葉を放つ。


「ならさ、今度から俺と一緒に学校行こうよ」


「は…?」


岸田の一言に思わず、自分でもわかる程嫌な顔をした。大して深い関わりもない彼に、なぜそこまでしなくてはならないのか。
何も問題に思っていないのだろう。岸田はにこにこと笑顔を浮かべたままだ。


「いいじゃんそうしようよ」


「なんでそうなるの」


「だって、俺ら友達だろ?」


告白の時もそうだったが、彼の多少強引なところは、とてもじゃないが好きになれない。なによりも、"友達"という単語を理由に近寄る岸田が気持ち悪く思えて仕方がなかった。

やはり、しっかり断っておくべきだったと後悔する。


「俺、もっと柏木さんのこと知りたいんだ。せっかく話せるようになったことだし」


─────そっちが強引に話しかけて来るんでしょうが。


心の中で悪態をつく。


「柏木さん」


岸田が呼ぶ。返事はどうしたとでも言いたげな顔だ。手のひらを握って、私は喉の奥から声を絞り出した。


「ごめんなさい」


そう言い残し、岸田から走って逃げる。流石に通学路では追いかけて来ないだろう。周りは他の生徒で溢れていて、特に目につきやすい。

しかし、走り慣れていない体を動かしたためか、息が上がるのもすぐのことだった。ある程度走ったところで耐えきれなくなり、速度を落とす。恐る恐る振り返ってみたが、岸田はもう見えなくなっていた。


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