「先生、愛してる」
すぐそこの受付カウンターには先生がいる。岸田と一緒にいる姿を見られたくないというのに、この男はとことんその願いを打ち消していく。
恐る恐る先生の方に目をやると、先生は手元の文庫本から顔を上げて、睨みつけるようにこちらをじっと見ていた。微かに眉をひそめ、見るからに不服そうな表情だ。それを見て、より一層目の前の岸田という存在が疎ましく思えた。先生にあんな表情をさせてしまったことに、どうしようもなく嫌気が差すのだ。
「なぁ、どこ見てんの?」
そのとき、岸田が顔を寄せて、先生の方を見た。
「倉本先生?なんか用事?」
「い、いや。別に」
しまった。そう思ってすぐさま目を逸らす。
岸田の目の前で、下手な行動は取られないと悟った。
「ところで、何の用なの」
とにかく話題をずらさなければと、必死に話を元に戻す。すると岸田は、そうだったと手のひらを打った。
「一緒に帰ろ」
「はぁ?」
朝の時と同じように、思わず嫌な返事が出た。共に登校することすら嫌だというのに、なぜ下校も誘われなければならないのか。岸田のその根性だけは認めてやらなくもない。
「一度くらいいいじゃん、朝は断られたしさ。本しか読んでないんだし、特に用事があるわけでもないんでしょ?」
「ま、まぁ…」