「先生、愛してる」
普段はこの後、先生と過ごす時間になるので用事がないと言えば嘘になるが、この場でそんなことが言えるはずもなく、つい口ごもってしまう。
「……わかった」
仕方なく了承することにした。一度くらいならと、もうこれきりにすればいいんだと胸に誓って。返事を聞くと岸田は、待ってましたと言わんばかりに、私に帰宅の用意を急かして、図書室の出入口まで腕を引っ張った。
「ちょっと」
岸田に連れられながら、早々に図書室を後にした。去り際に先生の隣を通ったが、そのとき先生はもう既に手元の文庫本に目を落としていて、去りゆく私に一瞬すら視線を合わせてはくれなかった。
ずくんと痛む胸に手を当てて、岸田の思う通りに学校の外へ出る。
「いい加減、手を離して」
「あ、ごめん」
そう言って、しばらく握られていた腕を離してもらう。今日は先生との時間を奪われたことで、かなり気分が悪い。日々のストレスを発散できる唯一の場でもあったというのに、これでは全てがめちゃくちゃだ。
夕焼けに照らされた帰り道を二人で歩く。今まで男性と肩を並べて歩いたことが無いため、変な違和感に見舞われた。対して岸田はそんな素振りもなく、平然としている。
「ねぇ、どうして私なの?」
この際だからと、秋奈は一番の疑問を彼に切り出した。それを聞いて、岸田はうーんと背伸びをしながら答える。