「先生、愛してる」


「他の生徒とは、違う雰囲気を持った人だなと思って」


「違う雰囲気?」


例えばどんな。私は言った。


「誰も寄せ付けない冷酷な感じが、他の奴らとは違って大人びてるなって。素敵だなって感じたんだ」


「それって、当時私がいじめられてたからじゃないの?人を寄せ付けないのも疑心暗鬼になっていたからだし、当たり前だと思うけど」


私は淡々と答えた。実際、いじめが無くなった現在でも他人を遠ざける癖は治らないままだ。それが岸田を惹き付けたとなると尚更、わけがわからなくなった。


「昨日告白された時からずっと疑問に思ってたの。人ばかり避けていて、高校生らしく誰かと笑い合うこともない。いじめも受けていたから、誰も近寄りたがらない存在だったはずなのにどうしてって。私なんかよりも、もっと可愛げのある女の子はたくさんいたはずなのに」


もっと言えば、自身の記憶にさえ岸田という男は存在していなかったのだ。それほど他人に興味を持たない、何の面白みにも欠ける私に、なぜ恋心を抱いたのかが理解出来なかった。もし自分が岸田の立場ならば、こんな女こっちから願い下げだ。

今でさえ、こんなに冷たく接しているというのに。


「わからない。もしかすると、一目惚れだったかもしれないんだ。入学した当初から柏木さんのことは気になっていて、でもそれが好きってことだってわかるのはしばらく先のことだったから」


そうこうしている間にいじめが始まっていたんだ、と岸田は付け加えた。


「そもそも、人が人を好きになるのに理由なんているかな。そうなってしまったんだから、仕方ないだろ」


岸田の言い分もわからなくはなかった。
自分自身、先生と関わり始めたのも興味本位からだったと思うが、どこでどうやって恋愛感情へと発展してしまったのかは全く検討がつかない。気がついたら、お互いそんな関係になっていたのだ。


だからだろうか、岸田の言葉に反発することができなかった。


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