「先生、愛してる」
「まぁ、そうかもね」
私は案外納得して言った。
「ねぇ、少し聞いてもいいかな」
岸田が真剣な表情でこちらを見る。
何を口に出されるのかと想像しながら、「なに?」と問うた。
「柏木さんって、他に好きな人がいるんじゃないの?」
その言葉にどくんと心臓が鈍く跳ね上がった。一気に手に汗が滲む。妙な息苦しさが襲い、上手く言葉が出てこない。どうして、そんなことを思いながら岸田の方を直視した。
「やっぱ、図星なんだ」
反応を見て、岸田が面白そうに言った。
「柏木さん、結構表情に出るタイプだよね」
「表情…?」
恐る恐る問う。すると、だってさ、と岸田は続けた。
「俺が柏木さんを好きになった理由を話している間、何か考える素振りを見せたかと思うとすぐに穏やかな表情になるんだもん。それって、俺の理由に自分との共通点を重ね合わせて、別の誰かを想ってたってことじゃないの?」
──────違う?
にこにこと笑顔を浮かべて岸田は言う。見かけによらず、勘が鋭い岸田に、私は驚いていた。自分が恋心を抱く相手が学校の男子生徒なら良かったものの、先生というだけに妙に緊張して、どう自分をコントロールすればいいのかわからなくなる。
「俺の言葉が嬉しくてにやけてくれてたんなら良かったんだけど、柏木さん、俺のこと微塵も意識してくれないしさ。ってことは、他の誰かだもんね」
探偵気取りのつもりか、岸田は満足そうな表情を浮かべた。考えが当てはまったことを喜んでいるのか、面白そうにこちらの顔を覗き込む。
「まぁ別に、相手が誰なのかなんて聞こうとは思ってないから安心してよ。柏木さんが妙に俺のことを避けるからカマかけてみただけ。好きな相手がいるんなら、ちょっと意味がわかった気もするし」