「先生、愛してる」


「いや、そういう訳ではないけど。何か特別な理由があったのかと思って」


「だって、学校の司書が読んでいる本ですよ?どんな本なのか、気になるじゃないですか」


「あぁ」と先生は頷いた。なるほど、と理解した様子だ。


「しかし秋奈は、僕が読んでいた本を読むのが好きだね」


先生が”柏木さん”ではなく”秋奈”と呼ぶのもこの時の特徴だ。いつもは周りに悟られぬよう「柏木さん」と呼ぶ。「秋奈」と下の名前を呼び捨てにされるのは、今でもなんだかむず痒くてなかなか慣れない。


先生の言葉に、私は笑って返した。それで話題を終了させた気になる。

司書が読んでいるからというのも間違いではないが、一番大きな理由は他にある。先生の感じることを、思考を、好みを、より近くで感じていたいからだ。だからこそ、私は先生の読むものを漁ってしまう。恥ずかしくて、決してそんなこと言えやしないけれど。


私の受け答えを真実だと捉えているのか否か、先生は「ふぅん」と素っ気ない返事を零し、『月光』を閉じて机上に置いた。


「この本はね、綺麗な文ばかり並んでいるけれど、それの全てが良いというわけじゃないんだ」


突然、先生はそんなことを言い出した。


「どういうことですか?」


不思議に思い、尋ねる。

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