「先生、愛してる」
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いつの間にか、岸田の様子が一変していた。
少年らしくふっくらとしていたはずの肌は以前とは変わって痩せこけ、目元には常に隈を浮かべているようになった。
噂によると、学校にもあまり姿を見せていないようだ。
たまに現れても、いつものように陽気な態度で私に接することも少なくなり、今ではじっとなぞるように見つめられることが多くなった。
しかし、中でも一番妙だと思うのは、やたらと先生のことに関して話題を振ってくるようになったということだ。
────先生とは仲が良いの?
────先生とは何か話したりする?
彼が私と先生に対して何か不信感を抱いているということは伝わってくる。以前はそんなこと口にも出さなかったというのに。何に勘づかれているのだろうという恐怖心を抱えるたびに、岸田と顔を合わせるのが怖くなる。
始まりは、最後に帰宅を共にしたあの日だ。岸田が初めて先生に対して妙な言葉を連ねた日。あれ以来、岸田は変わってしまった。
岸田が何を思っているのか全く予想がつかず、どこからどう見ても何かがあったとしか思えない。
好めない相手とはいえ、心配もしていた。
岸田に話しかけられるとき、私は決まって「どうしたの」と問うようになった。しかし、当の本人は「なにが?」とまるで理解していない様子だ。
先生に話してみても、「難しい年齢だからそういうこともあるだろう」と対して興味がないとでも言うかのように、あっさりと話題を流されてしまった。
今日の昼休み岸田に会ったが、やはり様子は変わったままだ。
私は自販機に飲み物を買いに行く途中で、岸田は友達と談笑していた。岸田は私を見るなり笑顔で挨拶を交わしてくれたが、私の目にそれはどうも気味悪く写って仕方がなかった。ただ"笑う"という表情をしただけの、心のない乾いた笑顔。
周りの友達も、どこか岸田の様子を気遣っているように見えた。
岸田が胸の内に抱える思いも理解できないまま、私は会釈し、彼の目の前を去ったのだった。
「柏木さん」
その声に、我に返った。瞬間、開いていた本が手から滑り、机の上に音を立てて落ちる。まだ他の生徒の残る図書室で、秋奈は目の前に立つ人物に驚きを見せた。