「先生、愛してる」
嫉妬。
その感情の存在がどれだけ私の心を満たしたか。
先生に嫉妬されている。それを思うと、どうしようもないほどの満足感に見舞われた。この人は、ほかの誰でもない、自分自身を必要としてくれているのだ。
嬉しい。胸の奥が中心から外にかけて温かくなってくるのを感じた。その恍惚たる事実を噛み締めながら、先生の怒りを受け止める。そうなってしまえば、怒る彼も美しいとさえ思うのだ。
「秋奈?」
返事をしないことを疑問に思ったのか、先生が呼びかける。対して、「気持ちは変わりません」と答えた。
それが彼の嫉妬心を煽るためか、本心か、自分でもわからない。気づけば流れるように口から出ていた。
先生は不機嫌そうに顔を歪める。きっと、不安なのだろう。自分が先生以外の誰かを、意識の片隅に置いているということが。岸田さえいなければ、私は他の生徒に情を移すこともなく、先生だけを見て、先生だけに意識を注いで生きていただろうから。
自分自身が先生の所有物であると彼に認識されていることを、私は知っていた。言われなくとも、知っていた。それを見い出せるだけのことを、先生は私に行ってきたのだから。先生の中で、岸田拓という男はただの邪魔者でしかない。所有物を奪おうとする人間だ、当たり前のことだろう。
先生の心が見えた瞬間。頬杖をついて唇を曲げる先生に、頬が緩みそうになるのを無理やり抑えた。
「今日はもう帰りますね」
最終下校時刻間際、私は先生に向けて言った。納得しない様子で先生は椅子から立ち上がる。鞄を持ち、図書室の扉まで歩く私の後ろを歩いて扉まで来ると「気をつけて」と言った。「さようなら」と返して、図書室を去った。
校外へ出た時、私は口いっぱいに外気を吸い込んだ。そして、思いっきり吐く。
ずっと我慢していた笑みを浮かべて、夕暮れの道を歩いた。
私が先生から得て一番に心躍るものは、洒落たプレゼントや食事でも、触れ合いでもない。ただ、自分を想ってくれているのだという確証。それだけだ。