「先生、愛してる」


「柏木さんの好きな人がただの生徒なら良かったんだ」


岸田が放った言葉に、心臓が鈍く跳ね上がる。いつからかはわからない。けれど岸田は知っているのだ、隠していた想いを。そのことに、私は薄々勘づいていたはずだった。ついに守り抜けなかった。その事実が私の心を蝕み、涙が溢れてしまいそうだった。


「"そう"なんじゃないかって思い始めてからずっと、俺の気のせいでありますようにって願ってた。でも、だめだった」


睨むような目つきで岸田は言った。


「いつだったか、柏木さんの後をつけたことがあってさ。いつからあの家に帰ってないの?今住んでる家、倉本先生の家だよね。先生が入っていくのが見えたけど」


岸田が私の学生服に手をかける。ブレザーを肩から落としカッターシャツのボタンに手を伸ばすと、両手で左右に引っ張りぶちぶちとボタンを弾き飛ばした。


自身の白のブラジャーが露わになる。胸を覆うそれを、岸田はなんの躊躇いもなくずらし上げ、胸の突起した部分に唇を押し当てた。にゅるっとした舌の感覚が私の体の上で這い回る。あまりのことに気持ち悪さと恐怖で身が震えた。


「一年の頃からずっと、柏木さんのことが好きだった。俺がこんなに想っているのに、努力していたのに全く振り向いてくれなかった。どんな気持ちか、わかる?」


岸田は私の胸を貪りながら、淡々と語る。
涙を流して悲鳴をあげようにも、再び口を塞がれて声が響かない。


「叫んじゃ駄目だよ柏木さん。こんな姿、他の人に見られてもいいわけ?」


卑怯だと思った。彼は私が叫べないとわかっていてこの路地に連れ込み、行為を行っている。


何故こんなことをされなければならないのか。先生の言うことを聞かずに彼を心配したから?卑猥な妄想を浮かべたから?様々な思いが頭の中を巡るが、結局腑に落ちるものはなかった。


その間にも岸田は体を貪り続ける。胸を堪能したあとに、今度は当たり前のように下部へ指を這わせ始めた。


やめて。触らないで、そこだけは。そんなことを思っても岸田に届くはずもなく、彼は下着の中に手を入れた。


「なんで、なんで教師なんだよ。なんであいつじゃなきゃ駄目なんだよ。堂々と触れ合えもしないくせに」


────俺なら、自由に触れさせてやれるのに。


岸田は吐き捨てるように喋り続ける。


岸田は、相手が教師であるということに腹を立てているのだ。本来ならば、許されるはずの無い恋は大体の人間に穢らわしく見える。周りに知れてしまえば大きな問題にもなり兼ねない。きっと岸田には、そんな私が不自由に見えて仕方が無いのだ。

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