「先生、愛してる」
"ただの生徒なら良かった"岸田はそう言った。
恐らく本心からだろう。つまりは、生徒なら諦められたということだ。岸田が諦められないとするならば、それは禁忌の相手であるから。岸田は、先生と私の関係を深く考えていたのだろう。恐らく目元の隈も痩せた頬も、岸田の体調不良はそのせいだ。
岸田は私の体を眺め見て「へぇ、体はまだ預けてなかったんだ」と呟いた。下部を触り、私が処女であるということを確信しての言葉だろう。その瞬間に、岸田のあのなぞる視線は、接吻印のようなものを探していたのだろうということを知った。
「なら、どうせキスも出来てないんだろ」
岸田が口を塞ぐ手を外す。しかし、すぐに唇で唇を塞がれた。口内で泳ぐ岸田の舌が気持ち悪い。開いた口に自身の涙が触れて、少しのしょっぱさを感じた。その間にも、指が私の体の中へと侵入し、激しく動き回る。痛い。痛い、痛い。
誰にも触れられたことのなかった箇所を、岸田の指が這い回った。屈辱が、羞恥が、何もかも押し寄せてきてただ泣いていることしか出来なかった。
快楽など微塵も感じない。こんなもの、交わりとは言わない。
「あいつじゃなくて、俺と付き合えよ」
岸田は言った。
「そうしたら、バラさないでやってもいい」
しかしそんな提案を、私は初めから聞き入れるつもりはなかった。とにかく今は、帰りたい。帰って、先生に会いたい。
「どうなんだよ」
岸田が見つめる。対して、私は掠れた声で言った。
「なんでこんなことするの」
「……あいつが、むかつくからだよ」
間を置いて、岸田は続ける。
「一瞬たりとも俺のものにならないのなら、あいつより先に全てに触れておきたかった」
その言葉に、私はまた涙を零した。決心して、震える声で告げる。
「私は、あなたとは付き合わない」