「先生、愛してる」


今、何よりも重視するべき点はこれからの学校生活だ。岸田がいるあの学校へ、通えるのかということ。普通なら、自分のことで頭がいっぱいになって涙ながらに先生に助けを乞うだろう。


けれど、私は違った。顔を歪め、何かを考える素振りを見せる先生に嬉々としていた。


放課後の時もそうだった。嫉妬をする先生が愛おしくて胸が張り裂けそうだった。自分が傷つくことよりも、何よりも、先生の感情の起伏に胸を高鳴らせる。


「秋奈、何をそんなに笑っている」


そのとき、先生が言った。

笑っている?自分が。そのことに私は気づいていなかった。嘘だ、と思って自身の頬に触れると、本当に口角が上がっていた。


「先生が傍にいるから、安心しているんですよ」


瞬間的にそんな風に言って誤魔化した。しかし、お陰でようやく自分の本心に気づくことができた。顔を歪める先生を、嫉妬をする先生を見て高揚する心理の意味。それは。


────私は、先生を夢中にさせたい。


胸の内で知らずとして燃えていた感情の正体は、これだった。


彼の余裕な表情を崩してやりたい。
自分だけを見て、自分だけを想って、自分のために嫉妬して、自分のために笑って、怒って、泣いて、生きて、死ぬ。

そんな風に先生を独り占めしたかったのだと。


そのために、恐らく岸田という人物は最適だった。自分を好きだという岸田は、先生の心を乱すには完璧だった。今日だって、本気で嫌がってもがいていればあの岸田の手から逃れられたかもしれない。でも私はそうしなかった。

表面上は泣いて悲鳴を上げたが、体はされるがままだった。


なぜか。
そうすることで、先生の注意をこちらに奪えると思ったからだ。岸田の手に触れられる度に起こる嫌悪感は確かに存在していたが、頭の中では傷つく自分に悲しみ激怒する先生の姿を浮かべていた。


───────岸田君、ごめん。


気づいてしまった頃にはもう遅かった。岸田に会いたい。そうしてまた自分を傷つけて、それを見た先生を苦しめてやりたい。


もっと。
もっと、もっと。


今以上に自分だけを見てほしい。
先生。先生。先生先生先生─────


それは、理性が崩れてしまった瞬間だった。























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