「先生、愛してる」
先生は時折こういう遊びをする。他人の視線がどこへ行こうとも、それを追いかけて逃がさない。遊びの対象になった私は、恥ずかしさと心地良さで身震いをした。
ころころと眼球を泳がせて、視線をあちらこちらへと移していく。先生に対する意地悪ではなくて、単純に羞恥の思いがあるからだ。先生をちらりと見ると、彼の鋭い眼差しにぞくりと背筋が震えた。
思わず生唾を飲みこむ。
今、先生は私だけを見ている。その事実を思い知らされると同時に、心臓の脈打つ音が早くなっていくことを感じた。頭がおかしくなりそうだ。いつこの羞恥から解放されるのだろうと思いながら、必死に耐え続けた。
そこで、ふと目を閉じてみた。
これで先生の視線から逃れられる。無礼には違いないが、他に方法が無かった。
しばらくして恐る恐る瞼を開けてみると、そこには焦れたように口を歪ませる先生の顔があった。
先生もそんな表情をするんだ、と私は驚いて思わず「ふふっ」と声を漏らす。そう、この顔が見たかったのだ。
「残念だ」
先生が、ため息をついた。
いつもなら、私が焦れて先生が勝つ。それで終わりのはずなのだけれど、今回は私の勝ちだ。
少し優越感にも似た思いを胸に抱きながら、私はくすくすと笑った。
「ねぇ、先生」
静かな声で呼んだ。先生がこちらを見る。
「愛してる」
それを聞くと、先生の口角が少し上がった。