「先生、愛してる」
その表情を見て、息を呑む。
やせ痩けた頬、あまり眠れていないのか目は赤く充血していた。以前の美しい彼女はどこへ、そんなことを思わせるほど哀れな姿だった。先生は僕の顔を見るなり、ぼろぼろと涙を流した。僕の腕を掴み、胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
先生はずっとそう呟いていた。
「先生は何も悪くない、僕は傷ついていない」
そうは言っても、先生の謝罪の言葉は止まらない。一体、学校で何を言われたのだと心の中で思った。自分が慰めを受けていた分、彼女が受けた仕打ちなど理解し得ない。きっと自分が思っているよりも、酷い物言いをされてきたのだろう。
「先生」
身をかがめ、泣きつく先生の両頬に手を添えた。顔を上げさせ、無理やり目を合わせる。こうでもしないと、恐らく話し合うことさえ叶わない。
「謝らなくていい」
そう言うと、先生はようやく声を静めた。
「何を言われたのか知らないけど、僕は自ら望んでここにいるんだ。先生に傷つけられたと思ったことなんて一度もない」
────奴らの言うことを鵜呑みにするな。
皆で寄ってたかって、一人の女性を責めあげたのだろう。それは寧ろ、"お前は彼を傷つけたのだ"という洗脳と変わらなかったかもしれない。
「私、あなたの人生をめちゃくちゃにしたわ…。生徒に手を出して、ましてや体の関係なんて…」
先生は続けた。それを聞いて、僕は目を細める。なぜ、まだそんなことを言うのだと心の奥につっかえるような思いが生まれた。
そうして、僕は今回先生に呼び出された意味を理解する。彼女は、ただ自分に謝罪をしたかっただけなのだ。"お前は悪い"そういう風に洗脳づけられた頭では、もう謝罪をすることでしか自身の身を案じてやれないのだろう。
なんて、哀れな。
すると、僕は先生にそっと口付けた。
先生の目が大きく見開かれたのがわかる。