「先生、愛してる」
その時、倉本君、と先生が呼んだ。何、と問うと彼女は心配そうな表情を浮かべ、そんな顔しないで、と呟いた。
「そんな、顔?」
彼女の言葉に、僕は疑問を抱く。なんのことだ、としばらく考えていると、先生は心情を理解したのか僕が発する前に言った。
「とても、辛そうだわ。こんなことになってまで言い辛いけれど、私、あなたにそんな顔をさせたかったわけじゃないの」
「……」
「お願いよ。私も頑張って笑うから、どうか…笑って欲しい」
しかしそう言った先生の瞳は、今にも粒を零してしまいそうな程潤んでいた。
笑う?この状況でか。
思わずそんな事を口走ってしまいそうになったがすぐに飲み込んだ。恐らく今は、彼女の言う通り笑顔でいることが一番かも知れないと思ったからだ。
今度いつ会えるとも知れぬというのに、この機会を全て謝罪という行為で埋めつくしてしまうのも馬鹿らしいと思った。ならば今日くらい、例え似つかわしくなくともいつものように笑いあって、愛を確かめ合っているべきだ。何も可笑しなことなどあるものか。僕は先生の意思に従うことにした。
それからは、もう無我夢中だった。
気付けば、互いに手を伸ばし触れ合っていた。
机に先生を押し倒し、身に着けていたシャツを躊躇なく捲りあげる。現れた藍色のブラジャーを慣れた手つきで取り外し、突起した部分を口に含んだ。やせ細り、程よく身についていたはずの柔い肉はほとんどなくなってしまっていたが、それでも彼女を愛す意思は変わらなかった。白く滑らかな肌を手のひらで愛撫し、胸が済んだらゆっくりと下部へ舌を這わせていく。
そんな中、先生が自ら指を噛んで必死に声を抑えようとしていた。それを見て、抑える余裕などないほど悪戯に乱してやりたいという思いを抱く。
堪らなくいやらしく映る彼女の姿に、体を起こして抑えきれなくなった衝動を行為に移す。先生のショーツを脱がし、結合を果たす。すると動きを止めることなく、そのまま倒れ込むようにして彼女の唇に自身の唇を重ね合わせた。いつものように口内に舌をねじ込み、また先生の舌を吸い上げる。大きく響くリップ音が、胸の内で広がる思いをさらに熱くさせた。
「く、らも、と君」
先生の呼びかけに、黙ったまま耳を傾ける。上下に揺れ、快楽に身を沈める彼女の言葉は途切れ途切れではあったがなんとか聞き取ることができた。
「紗和って、呼ん、で」
その言葉に、どくんと大きく胸が高なった。思わず、名前を呼んで、と懇願する彼女を強く抱きしめる。すると、その耳元で彼女の名前をよりも先に「なら、僕の名前を呼んで」と言った。