願いごと、ひとつ。
「ねぇ、そういえば駅前の通りに白い大きな家が出来てたの、見た?」
「白い家?」
やっと私の方へ顔を向けた孝志は首を傾げている。
「うん。真っ白な二階建ての家」
「さぁ? 幻覚でも見たんじゃねぇの」
嫌味たらしく孝志が言い放った。
開け放っていた窓から冷たい夜風が吹き込んでくる。
私はわざと音を立てて窓を閉めた。
機嫌をとるのも面倒くさい、早く帰って欲しい――。
「俺、帰るわ」
私の願いが通じたのか、孝志が深く溜息をついて立ち上がる。
「そう。鍵、持ってるでしょ? 閉めてってね」
私は玄関へ向かうその背中にそれだけ言うと、冷蔵庫からビールを取出してソファの真ん中に座る。
ここは私の席なのだ。
いつもの定位置に座ってビールを一口呑むと、やっと疲れが取れた気がした。