願いごと、ひとつ。
 
「ねぇ、そういえば駅前の通りに白い大きな家が出来てたの、見た?」

「白い家?」
 
 やっと私の方へ顔を向けた孝志は首を傾げている。

「うん。真っ白な二階建ての家」

「さぁ? 幻覚でも見たんじゃねぇの」
 
 嫌味たらしく孝志が言い放った。
 開け放っていた窓から冷たい夜風が吹き込んでくる。
 私はわざと音を立てて窓を閉めた。
 
 機嫌をとるのも面倒くさい、早く帰って欲しい――。

「俺、帰るわ」

 私の願いが通じたのか、孝志が深く溜息をついて立ち上がる。

「そう。鍵、持ってるでしょ? 閉めてってね」

 私は玄関へ向かうその背中にそれだけ言うと、冷蔵庫からビールを取出してソファの真ん中に座る。
 
 ここは私の席なのだ。
 
 いつもの定位置に座ってビールを一口呑むと、やっと疲れが取れた気がした。
 
 
< 14 / 14 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

みずいろ

総文字数/1,077

ファンタジー3ページ

表紙を見る
Heroine

総文字数/3,625

その他5ページ

表紙を見る
月が見ている

総文字数/473

その他1ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop