願いごと、ひとつ。
 改札を出ると、駅前の人通りはすでにまばらだった。
 月末の忙しさはどこも似たようなものだろうが、腕時計を見ると午後十時を廻っている。
 肌に触れる夜風が少し、秋の気配を感じさせる、そんな夜だった。
 早く帰ってビールでも呑もう――そんなことを考えながら歩いていると、ふと、通りの向こう側に見慣れない建物を見つけた。 

 あれ――?

 あそこは確か空き地になっていたはずなのに。今朝はあっただろうか?

 いや、あんな建物、ほんの二〜三日やそこらで建つはずがない――。

 通りのこちら側から見る限りでは、たいそう立派な洋館に見える。
 私は何故か、吸い寄せられるように通りを横切り、その建物のそばへと駆け寄っていた。
 


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