願いごと、ひとつ。
「何か御用かしら?」

 ぎくり。として振り向くと、私と同い年くらいの、ほっそりとした色白の女性が立っている。

「あ、いえ、別にッ……ただ、可愛い建物だなー、と……」

 慌てて平静を装うとしたが、思いきり動揺してしまった。
 これじゃ十分に怪しい。

「ご近所の方?」

 その女性が、私に向かって微笑んだ。

 ――綺麗な人だ。
 
 透き通るような白い肌に腰までかかる豊かな長い黒髪、大きな瞳。
 それにまるで鈴の音のように澄んだ心地よい声をしている。

「あ、はい、ここから歩いて五分程のアパートに……見慣れない建物だったのでつい……すみません」

 別に他人の家を覗き込むつもりはなかったのだが、なんだかバツが悪い。

「良かったらあがっていかれます?」

 私の様子を気づかうように、女性が言った。

「いえ、もう遅いですし、また今度……機会があれば」

 当然の返事をしながら、私は何故か家の中を覗いてみたい気がしていた。
 



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