願いごと、ひとつ。
「そう。私は別に構わないのだけれど。いつでもいらして下さいね。私、たいていは家に居ますから」

 女性はそう言ってまた微笑む。

 ――それにしても綺麗な声だ。

『たいていは家に居る』ということは、上品で優雅な若奥様――といったところだろうか。
 その割には、どこか意思の強そうな、凛とした雰囲気を醸し出している。

「はぁ。そうですか……それじゃあまた、日を改めてお邪魔しようかな」

 自分の口が勝手にそう動いた、ような気がした。

「いつでもどうぞ」

 女性はにっこり微笑んで門を開けると、塀の向こうへと消えていった。



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