願いごと、ひとつ。
     †

「ねぇ、聞いた? 有森さんと山本さん、付き合ってるんだって!」

 パスタをフォークに巻きながら、最新の社内ゴシップを提供してくれているのは、同期の草壁桐子(くさかべきりこ)

「へぇー。そうなんだ。なんか意外な組み合わせかも」

 他人の恋愛話なんてどうでもいいけど、一応調子を合わせておく。

「え〜。あたし有森さんけっこうタイプなのにぃ。ショックですぅ〜」

 後輩の野中香織がぼやいたが、その割にはさほどショックを受けているようには見えない。

「あんたはタイプが多過ぎるんたってば」

 桐子がバッサリ切り捨てた。

 香織は今年入社したばかりの二十三歳。クリクリの天然パーマと、ぽってりとした唇で語尾を伸ばして喋る口調が可愛いらしい。
 そのせいで、大半の女の子達からはだいぶ誤解をされているけれど。
 背が高くて、割とハッキリ物を言う桐子とは正反対のタイプだ。
 同性ウケがいいのは明らかに桐子の方だろう。
 でも私は何故か、桐子より香織のほうが一緒にいて楽だった。こうゆうのを波長が合う、とでも言うのだろうか。


 ランチタイムの店内は混んでいる。
 
 いつものように二人のやりとりを眺めている私。
 
 いつも通りの昼休み。

 明日も明後日も来週も……来年になっても。
 たぶんこれまでとさほど変わらない日常を繰り返していく――。


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