願いごと、ひとつ。
「あ、今もう仕事辞めたいとか思ってたでしょ?」

 桐子がからかうように言った。

「そりゃ、働かなくて済むならとっとと辞めちゃいたいよ」

 私も冗談混じりで返す。

「ならさっさと永久就職でもすればいいのに。相手もいるんだからさ」

「う〜ん……結婚ねぇ……正直、あいつと結婚したいかどうかもわかんないんだよね」

『あいつ』というのは付き合って半年になる三枝孝志のことである。

「なんで? 孝志くん、いい人じゃない。それに割とカッコイイと思うけどな、私は」

 まるで私より孝志のフォローをするように桐子が言う。

「カッコイイ? そうかな? まぁ確かに整った顔してるなとは思うけど……色白だし、どっちかっていうと女の子みたいな顔だよね」

 私の言い方が素っ気なく聞こえたのか、桐子が核心を探るように聞いた。

「あんたってさ、孝志くんのこと、ほんとに好きなの?」
 
 その言葉の端に、少し棘があるような気がしたのは、何故だろう。



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