例えば君に恋しても


「ちょっと聞きたいんだけどさ、お前、綾瀬美織って女知ってる?」


薄笑いを浮かべながら愉快そうに電話口に訊ねる仁に、瑛士さんの声は一瞬、悩んだ感じで答えた。

「もしかしたら、この間壊した玩具がそんな名前だったかも。」


壊した・・・玩具?


瑛士さんの声が・・・


言葉が・・・


容赦なく私の体中に突き刺さる。



『何?仁の知りあい?』

「ちょっとね。壊したってなに?どういうこと?」

『ん?なに?怒ってんの?』

「まさか、暇潰しに楽しそうな話を見つけたなって思ったの」

『ああ、そういうこと?いやいや、どこまで俺のこと信じるものか実験。

まあ、金もなんもない女だったから、結局、せっかく借りてやった部屋も2ヶ月で退去。そのくせ、退去した部屋の前まで戻ってきて泣いてやがんの。

秘書に頼んで撮影して貰った写真。めっちゃ笑えるから今度見せてやるよ。

好きなら借金してでも貢げよってな」


ケラケラと笑い声がスピーカーから聞こえる。


それはまるで

瑛士さんの声をした偽物のように

私の知らない彼の姿だった。



どうしてこんなに傷つけられなきゃならないのか


知らない間に溢れてた涙が頬をつたって

私の髪を掴んでた仁の手を濡らした。



「じゃあ、今度よくその話を聞かせてよ」


そう言って電話を切った仁はなぜか優しい笑顔を浮かべて、私を見ていた。

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