例えば君に恋しても
「仁、お前仕事はどうした?
・・・わざわざうちに来るなんて珍しい」
「勿論、勤務中だよ。この会社と違って有能な部下が多すぎて自由がきいちゃうんだよね。
それに兄貴に会いに来たわけじゃないよ」
そう言い私の肩に腕を回した仁は、勝ち誇った顔で新一さんを見て優しく笑った。
「恋人がどっかの世間知らずに言い寄られてないか心配でね。
迎えに来たんだ。」
「恋人?」
目を丸くして私を見つめる新一さんと、一瞬目が合い、直ぐに私は俯いた。
「美織ちゃん・・・?どういうこと?」
「弟の恋人の名前を勝手に呼ばないでくれる?実は俺ってカナリ嫉妬深いみたいでさ。
あまり嫉妬させられちゃうと、何するか自分でもわかんないんだ。
ね?
美織?」
バカバカしい・・・。
私が溜め息をつくと同時に
新一さんが声を荒げた。
「彼女に何で脅してる⁉」
あのよるのように、完全にキレてる新一さんの握られた拳が震えてるのが目に映る。
「実の弟に対して辛辣だなぁ。兄貴、彼女が俺に交際を申し込んできた。
それを俺が受け入れた。ただそれだけ。
納得してくれた?」
「するわけないだろ?」
新一さんの血管が今にもキレてしまいそうに浮き立つ。
こんなところで騒ぎを起こすわけにはいかない。
「彼の言ってることは真実です。印鑑、押して下さい」
嫌な沈黙。
新一さんの傷ついた眼差し。
でも大丈夫。
貴女には貴女には相応しい道があるのだから。