例えば君に恋しても


「なら、仁もちっぽけなんだ?」

「そうなんじゃないかな?」

珍しく素直な言葉に驚いて、ちらりと横目で盗み見たその表情は見たこと無いくらい穏やかなものだった。

でも、油断してはいけないのが仁なんだ。

こうやって、心を開いてるように見せかけて突き落とす。

私はそんな裏切りをこの肌でしっかり感じた。

その瞬間の底の無い絶望間をこの心と引き替えに覚えた。


愛した人が教えてくれた。

本当に心を許して良い相手は、ちゃんと本能が教えてくれるものなんだ。


私にとって、それはきっと・・・新一さんだった。


今だから、そう思える。


「で?仕事サボってまで私とこんなことしてて、何か意味があるの?」

「あるよ。美織の事を知りたい。」

「・・・私の何を知りたいわけ?」

溜め息のように呟くと、横から視線を感じて

反射的に仁の顔をあげて振り返った。

瞬間

さっきまでと売って変わって氷のように冷たい目をして私を見つめる。


それは


肉食の世界で

崖っぷちに立たされたような

最早、餌となるしかない獲物にされたような

恐怖を

瞬間的に感じさせられた。


背筋が凍りついたように固まる。

捕らえられた瞳は一瞬たりとも逸らせない、

息をすることさえ許されないような

恐怖。



「君が俺を裏切らない人間がどうか知りたいんだよ」

偽物の笑みで取り繕ったって

脳がハッキリ危険信号を感じ取ってる。


嫌な汗が額に滲むのを感じながら

出来るだけ平静を装った。


「何を言ってるのかわからないわ・・・」


微かに震える声に

彼は頷く。



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